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回想録_水門崩壊の研究 & 安全対策 2018年8月9日 by 石井 徳章 |
テンタゲート式水門崩壊のなぞ解明の研究を始めたのが、 大阪大学基礎工学研究科の博士課程に入って2年目の1972年でした・・・ それから早や46年が経ちました・・・。 その間、水門が崩壊する原因を解明することができまして、 水門が決して壊れないようにする方法も明らかにすることができました。 今回、研究の成果を英語の本として編纂し、2017年8月に出版いたしました。 実に長い苦難の道のりでした・・・今この時を感慨深い気持ちで迎えています・・・。 1995年に米国カリフォルニア州サクラメント市郊外のフォルソンダムで 100トン近くある巨大な水門(テンタゲート式)が振動を引き起こして崩壊しました。 その28年前の1967年には日本でも京都府下の和知ダムで 同じ種類の巨大水門が崩壊していました。 当時、釣り人が濁流に流されて死亡し、大きな社会問題にもなりました。 私は大学の3年生でして、流体工学の講義の中で 事故のことを聞かされました。 その5年後に大学院博士課程に進学したところ、たまたま この水門崩壊のなぞの解明に取り掛かることになりました。 3年間の研究の結果、この種の水門は基本的に動的に不安定で 振動を引き起こす特性を有していることがわかりました。 それを博士論文にまとめて工学博士の学位を取得しました…それが1975年でした。 研究の成果が1977年3月3日付朝日新聞の 全国版にに報道されることになりました。 その前夜は喜々として眠れなかったものですが、 皮肉なことに…新聞報道が研究の苦難の始まりとなりました。 新聞報道を見た水門メーカの人たちが 「けしからん研究をやってる・・・水門の設計ができなくなる・・・」と言って 恩師に詰め寄ってきたのです。 結局…恩師からの適切な助言が得られないまま、 研究が頓挫することになってしまいました。 その後は細々と研究を続けざるをえませんでした。 1993年には胃癌が見つかり・・・緊急の手術をして… 当時は落胆の日々を過ごしていたものです…。 そんな中で、手術後2年の1995年に、 巨大な水門が崩壊した・・・それも先進国の米国で!… というJapan Timesの報道が飛び込んできました…。 私が研究をやっていた水門がやはり壊れるんだ… 小躍りして興奮したものです…。 水門を管理管轄していた米国連邦政府内務省・開拓局(USBR)に直ぐに電話して、 水門の振動による崩壊を研究している者です… 事故原因の解明に協力したい…と申し出ました。 そんなことが…当時よくやれたな…度胸あったな…と自分ながら感心ます…。 排水の陣でしたから…。 その結果、事故調査の一員に加えてもらえることになりました。 直ぐに現地に飛びますと、「偉い研究者が来る…」といった大歓迎の雰囲気でした。 それが転機となって…研究を本格的に再開することができるようになりました…。 もし、私が癌で死んでいたら… 水門崩壊のなぞも決して明らかにされることはなかったことでしょう・・・ ・・・数奇な・・・運命的な研究の展開でした・・・。 大型の土木構造物の崩壊事故で有名なものとしては 米国シアトル市の近くにあるタコマナローズ橋が 強風にあおられて1940年に崩落した事故が上げられます。 橋の振動は軽い空気中での現象ですから 壊れるまでには振動が大きくなる必要があって、 壊れる際の状況が動画で鮮明に撮られていました…。 そのため、橋の振動現象が多くの研究者らによって徹底的に研究され、 現在は吊橋が決して壊れないような工夫がなされています。 ところが、水門の場合は1000倍も重い水を支えていますから、 小さな振動で一瞬の内に崩壊しました… ですから壊れる際の映像はもちろん残されていませんでした・・・ それゆえ原因の究明は困難を極めました…。 しかし、幸いなことに… 振動を目撃したという証言が得られ、振動の痕跡もありましたから… きっと何か明確な原因がある・・・と自分自身に言い聞かせながら… コツコツと研究を進めてきました…。 その結果、米国で起きた巨大水門の崩壊…、 日本で起きた大型水門の崩壊…、 共に、吊橋を崩壊させたのと同じフラッター(羽ばたき)振動が原因だ… ということが分かりました。 実物と同じ大型モデルでその現象を再現することもできました。 フォルソンダムゲートや和知ダムゲートの崩壊のような重大事故は 絶対に繰り返してはなりません・・・次の世代の人たちのためにも・・・。 寺田寅彦先生の名言を思い起こします: 「災害は人為的であるがゆえに科学の力によっで克服できるように思えるが、 人為的であるがゆえに不可抗的である」 人間は技術が引き起こす重大事故に対して決して奢り高ぶり怠慢であってはならない・・・ との思いから、本を書こうと思うようになりました・・・。 水門は世界中で使われていますから、世界に発信する必要がありました…。 著作を思い立ってから既に約7年が経過しております・・・ 膨大な研究資料をまとめて・・・やっと完成に漕ぎつけることができました。 英語の本は660頁ほどのハードカバーの装丁でして、その内容は (1)複雑な現象の簡単なモデル化、(2)数式による徹底した解析、(3)実験による徹底した検証 によって構成され、決して壊れない水門の設計がいかにあるべきか・・・ を明らかにしています。 本のタイトルは「ダムに設置される水門の振動とそれによる崩壊を防ぐ工学」です。 研究に着手した当時、最初に協力してくれたのが、 阪大基礎工学部4年生の竹本信司君でした。 阪大基礎工学研究科大学院生の山崎雅裕君も 毎日夜遅くまで研究に協力してくれました。 山崎雅裕先生は一度企業に出ましたが、 関西医科大学に入学して再度勉強に励み、 今は機械工学も分かる立派な医者になっています。 田中篤君や森永昌和君にも大層頑張ってもらえました。 その後、大阪電気通信大学の500名近い学生諸君が研究に協力してくれました。 この場をお借りして心より御礼申し上げます! 以下は私自身が崩壊直後に撮りましたフォルソンダムゲートと振動痕跡の写真の一部です・・・: ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ダムサイドピアのレール上に残った振動の痕跡 ![]() ![]() 写真の転載不可 Copyright for Photos 2017 by Prof. Emeritus N. Ishii back |
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